ユスクキュル『生物から見た世界』を読んで
ユスクキュル著『生物から見た世界』(岩波文庫)を読んだ。生物がこの世界をどのように認識しているのかについて書かれた認識論である。
ユスクキュルによると、生物はそれぞれの主体によってそれぞれの世界の認識の仕方があり、それを「環世界」(Umwelt)と名付ける。例えば、目の見えないマダニにとってこの世界は匂いと温度しか意味を持ちえず、またミツバチにとってつぼみの状態の花は存在せず開花した状態しか意味を持たない。カタツムリの環世界では1秒間に4回しか振動しない棒は静止した棒と同一であり、コクマルガラスの環世界には死んだ昆虫の概念は存在しない。このように、それぞれの主体には主観的な世界だけが存在するのであり、完全に客観的な環境など存在しないのである。
人間界でも同じである。にもかかわらず、現代は人間の認識を万国共通のものとする傾向がある。大変危険なことである。訳者(日高敏隆)はあとがきでこう述べる。
「人々が『良い環境』というとき、それはじつは『良い環世界』のことを意味している。環世界である以上、それは主体なしには存在しえない。それがいかなる主体にとっての環世界なのか、それがつねに問題なのである。」
真理だと思う。